無極化し多数のパワーが群雄割拠する今日の世界における日本の外交政策に関する基礎的情報収集および分析を行い、国内外での情報交換やネットワークの構築を図りさまざまな政策提言や情報を発信していきます。

2015/12/14
国連リビア支援ミッションの トップ交代  小林 周
2015/12/14
積極的平和主義と紛争予防の潮流      本多 倫彬
2015/12/14
欧州難民危機とEU             林 大輔
2015/12/14
同時多発テロ事件と昨今の国際テロ情勢  和田 大樹
2015/12/14
米中首脳会談の評価            村野 将
2015/12/14
香港は香港だった             川上 高司

世界は今   

滝田 賢治

中国海洋進出の背景

11月25日

 国際常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)が今年7月12日にフィリピン政府の訴えを認める裁定を下し、中国が歴史的領有権を主張する「九段線(Nine-Dash Line)」には国際法上の根拠がないと断定するや、中国は国を挙げて「この裁定は紙くず」「無効で拘束力もない」とヒステリックな非難を繰り返してきた。9月初旬、G20(中国・杭州)とASEAN首脳会議(ラオス・ビエンチャン)では、中国の水面下での外交攻勢が功を奏して、共同宣言では仲裁裁判所の裁定には直接言及することはなかった。元々、中国から膨大な経済援助を受けて親中派と目されていたラオス・カンボジアに加えてドゥルテが大統領となったフィリピンも経済援助と引きかえに沈黙してしまった。
 8月前半に開かれた恒例の「北戴河会議」では党長老と習近平・共産党総書記(国家主席)との激しい対立の結果、後者が窮地に立たされたかのような報道が一時的になされたが、10月下旬に開催された「6中全会(第18回中央委員会第6全体会議:24〜27日)」では、習近平が共産党の「核心」と位置づけられ、「1強体制」が強化されたとの見方が有力となっている。「習1強体制」の下で南シナ海問題ばかりでなく、東シナ海問題も含めた中国の海洋進出が加速することは疑いない。ではなぜ中国は海洋進出を加速してきたのであろうか。
(1)大陸国家から海洋国家へ:マクロ的に見れば米ソ冷戦終結と中ソ対立の終焉により、中国が大陸国家から海洋国家へ国家としての性格を転換させる条件を確保したからである。歴史的にみれば大陸国家であった中国は、共産中国が成立した後も大陸支配強化のため陸軍が主体であり1960年前後から中ソ対立が激化したため、約6400kmに及ぶ国境を防衛するための大陸国家としての「伝統」を堅持していた。2つの対立・緊張の終焉は大陸国家としての制約から中国を解放したのである。
(2)沿岸海軍から近代海軍へ:1972年に米中接近を実現しさらに79年には米中国交を達成したが「未回収の中国(チャイナ・イレデンタ)」ともいえる台湾へのコミットを維持・強化していたアメリカがソ連・ロシアに変わり中国にとって潜在敵となったのである。1982年9月鄧小平は海軍司令員・劉華清に「第一列島線(First Island China)」概念の具体化を指示し、97年には劉の後任となった石雲生は「海軍発展戦略」を策定し、第一列島線に加えて第二列島線の概念を明確に打ち出した。80年代初頭まで中国海軍は約16,000kmと言われる沿岸を防衛する沿岸警備隊程度の組織であったが、経済成長に合わせるかのようにアメリカ第7艦隊を痛烈に意識しつつ近代海軍建設への工程を具体化していった。
(3)共産党統治の正当性の変化:第1の正当性は軍国日本から中国人民を解放したという「歴史的事実」であったが、大量の中国人が海外留学したり台湾の国民党との「和解」が進んだりSNSの普及により日本軍と中心的に戦ったのは国民党であることが明白になり、第1の正当性は崩れてしまった。第2の正当性は「平等の実現」であったが、改革・開放政策の中で展開された「先富論」により完全に否定されてしまった。今や中国共産党が権力を維持するには経済成長により国民を豊かにするという主張しかなくなってしまったのである。継続的な経済成長のためには、商品販売・原料獲得のための海外市場とのシーレーンと海底資源の確保が不可欠となった。「一帯一路」構想、あるいは北極経由の輸送路や中米のニカラグア運河計画、南米縦断鉄道計画など中国版の「世界政策」を実現するためにも海洋進出は不可欠であり、海軍力強化は空軍力強化と一体となってアメリカ軍の接近・干渉を抑止するためにも中国共産党政権には至上命令なのである。

星野 俊也

北朝鮮の海外ネットワーク 封じ込め

10月27日

 北朝鮮は、国際社会の非難や警告をものともせずに核実験を行い弾道ミサイル発射を繰り返している。韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の精神状態は「制御不能」と評すなかで、中国がようやく重い腰を上げた。米中当局が連携し、平壌の核開発を支援してきた疑いのある中国遼寧省の企業に捜査のメスを入れたのである。米政府は9月26日、「鴻祥実業発展有限公司」と経営者らを刑事訴追した。今後北朝鮮と関係の深い国内企業との接点も焦点のひとつとなってくるだろう。
 今回、筆者がこの事件に着目したそもそのも理由は中国企業摘発の証拠固めのなかに米国のC4ADS(高等国防研究センター)と韓国の峨山政策研究院という安全保障にかかわる米韓のシンクタンクが合同でまとめた報告書の存在を知ったからである。制裁下にある北朝鮮がいかにして海外ネットワークを維持しているのかを詳細に解明したものだ。
 報告書には合法的とみられる貿易活動の裏で巧妙に制裁逃れが進んでいる状況や、制裁対象の北朝鮮企業と直接・間接に関係がありそうな企業や個人、船舶など562件が記されている。鴻祥グループの企業が北朝鮮と5年間で5億ドル以上の規模の貿易をしていたことも示された。
 シンクタンクの研究者らは、企業の事業者登録情報、納税記録、貿易・通関データ、リアルタイム船舶追跡情報などといった公開されたデータを、高度な数理分析ツールで丹念に付き合わせてこれらの事実をあぶり出したのだ。独立シンクタンクによる調査とはいえ、この報告書は実は米司法省との協力の下で作成され、司法省を通じて分析結果が事前に中国政府に知らされたという。この一連の動きがウォールストリート・ジャーナルに伝わり、9月19日に同紙電子版は第一報を報じたと推察される。
 シンクタンクらしい政策志向の調査研究によって北朝鮮の海外ネットワークの実態を暴きそこに政府やメディアがダイナミックに関わって封じ込めが可能となった。研究機関とメディア、さらにいえば政府による見事な三者のコラボレーションである。そして米中韓という北朝鮮と利害を持つ三カ国が協力をした点も見逃せない。北朝鮮を考える上で日本も大いに参考になる事例ではないだろうか。 
(『産経新聞』2016年10月9日「新聞に喝!」欄に記載のコラム「対北朝鮮、米国の3者コラボ」をもとに一部加筆修正をしています